mutoです。
このシリーズにしては、比較的新しめの記憶かもしれません。
それでも、金色のパッケージや、やけに重厚な広告の印象が頭に残っていませんか?
「別格」。
キリンビバレッジが2014年に世に送り出した、
清涼飲料という枠組みそのものに正面から挑んだ、あまりにも野心的なブランドです。

名前の時点で、すでに覚悟が決まっていました
「別格」。
「プレミアム」でもなく、「ちょっと良い」でもない。
最初から“他とは格が違う”と宣言するネーミングです。
薄利多売が前提の清涼飲料業界において、
これは挑戦というより、宣戦布告に近いものでした。
発売データとラインアップ(事実)
別格は2014年11月4日に全国発売されました。
立ち上げ時の主なラインアップは、
- 日本冠茶
- 希少珈琲
- 生姜炭酸
いずれも375mlのボトル缶で、希望小売価格は税抜200円前後。
その後、烏龍茶、抹茶、レモネード、塩サイダーなど、
カテゴリーを横断する形で商品が次々と追加されていきます。
ブランドとしての展開期間はおよそ10か月。
2015年夏から秋にかけて、順次終売となりました。
広告展開も、逃げ道を作らなかった
広告の打ち方も、極めて攻めていました。
起用されたのは
松本幸四郎と松たか子という、重厚感のある親子キャスティング。
パッケージは金色を基調とした派手なデザイン。
テレビCM、屋外広告も大量に投下され、
街の大型広告を埋め尽くすのではないかと思うほどの露出でした。

テスト的に静かに始める気配はなく、
最初から全国で真正面勝負を仕掛けていた印象です。
業界の反応は、正直なものでした
業界内の空気は、おおむねこうでした。
「これは厳しいだろう……」
価格、ネーミング、日常飲料としての距離感。
冷静に考えれば、そう思われても不思議ではありません。
ただ一方で、
「キリンビバレッジなら、もしかして」という期待感があったのも事実です。
トクホのコーラという、誰が考えても難しい商品をヒットさせた実績が、確かにありましたから。

実際に飲んでみて、正直どうだったのか
ちなみに、私自身も発売とほぼ同時期に別格を飲んだ記憶があります。
正直に言えば、
味覚に関して「これは別格だ」と唸るほどの衝撃はありませんでした。
ただ、これは別格が悪かったという話ではありません。
日本という市場が、そもそも異常なのです
私は飲料業界で少し働いた経験がありますが、
日本ほどあらゆる商品の平均レベルが高い国は、世界的に見ても珍しいと思っています。
- コンビニで買える100円台の飲み物でも普通においしい
- お茶、コーヒー、炭酸、水、どのカテゴリーも完成度が高い
この市場で、味覚だけで「別格」レベルの差を出すのは、
はっきり言ってほぼ不可能です。
価格は、味ではなく希少性で決まります
これは飲料に限りません。
スターバックスのコーヒーと珈琲館のコーヒーを
ブラインドテストで飲み比べた場合、
多くの人は明確な違いを言語化できないでしょう。
お酒も同じです。
価格差を生んでいるのは、味覚そのものよりも、
- 希少性
- ストーリー
- ブランド
こうした要素です。
あるレベルを超えれば、勝負は味ではなくブランドになります。
だから「別格」という挑戦は、間違っていません
別格が挑んだのは、味覚の差ではありません。
- 価格
- ネーミング
- 世界観
- ブランドの格
これらすべてを使って、「別格」というポジションを取りに行った。
戦い方としては、理屈の上では正しかったと思います。
というか、そうするしかなかった・・・。
そして、あの光景を私は覚えています
発売からしばらくして、
量販店で別格がたたき売られていた光景を、私ははっきりと覚えています。
あれだけの広告投下。
あれだけの覚悟。
それでも、値札は容赦なく下がっていく。
飲料業界に身を置いたことがある人間なら、
あの光景が意味するところは、痛いほど分かります。
敢えて言えば、敗因はマス広告だったのかもしれません
敢えて言えば、別格の最大の誤算は、
マス広告に振り切ったことだったのかもしれません。
「別格である理由」を、丁寧に語る場がなかった。
公式サイトを見れば書いてあったのかもしれませんが、
一般消費者は消費財にそこまで時間を割きません。
これは残酷ですが、事実です。
今、同じ攻め方をしたらどうなるか
あれから10年以上が経ちました。
もし今、同じやり方で別格を出したらどうなるでしょうか。
正直に言って、
当時よりさらに残酷な結果になる可能性が高いと思います。
ただし、丁寧にやれば、攻略の余地はあります。
- 最初からマスを狙わない
- 狭い層に深く刺す
- ストーリーを語れる場所を先に用意する
もはや清涼飲料というより、
クラフト商品やD2Cに近い戦い方です。
それでも、私はこの挑戦をたたえたい
コカ・コーラやサントリーといったトップランナーが、
あえて正面からは打ち破らなかった壁に、
キリンビバレッジは果敢に挑みました。
結果は厳しいものでした。
しかし、誰もが「無理だ」と分かっていた壁に、
実際に体をぶつけにいった者だけが持つ価値があります。
願わくは、別格が
「売れなかった商品」として忘れ去られるのではなく、
マーケティングのテストケース、教材として語り継がれてほしい。
そうなったとき、別格は
一企業の失敗ではなく、
日本のマーケティング史に残る財産になります。
私は、そう信じています。
今日のところは、以上!


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