拝啓 高市早苗 自民党総裁へ。
まずは総裁選でのご当選、心よりお祝い申し上げます。
女性初の自民党総裁という歴史的な一歩を、国民の一人として大きな期待とともに見つめております。
この国は今、静かな転換期を迎えています。
人口減少、長引くデフレ、円安、政治への信頼低下──。
時代の地盤が少しずつずれ動く中で、女性リーダーが国の舵を握るという事実は、それだけで新しい風を感じさせます。
そんな中、私はひとつの言葉に立ち止まりました。
それは、「ライフワークバランスを捨てる」という発言です。
もちろん、報道の切り取りや文脈の一部であることは承知しています。
その裏には、国家のために全力を尽くすという強い覚悟が込められていることでしょう。
それでもなお、私は思うのです。
人は、永遠には走り続けられません。
気力と努力で国を動かす時代は、もう過ぎ去ったのかもしれません。
大切なのは、情熱を失わずに「構想を描く」こと。
そして、理想を掲げる前に、まず目の前を整えることではないでしょうか。
ゲーテの言葉：「まず家の前を掃除せよ」
ドイツの文豪ゲーテは、文学者であると同時に政治家でもありました。
彼が宰相として最初に語ったとされる言葉が、
「まずは家の前を掃除せよ。」
です。
これは単なる清掃の話ではありません。
国家を良くしたいなら、まず自分の足元を整えなさい、できることからはじめなさい──という比喩。
理想を語るより先に、現場を動かせという哲学です。
いま日本に欠けているのは、まさにこの「実践の哲学」かもしれません。
現場から始まる政治
政治家が語る理念や政策の多くは、壮大で、美しく、そして遠い。
「少子化」「AI」「多様性」「脱炭素」。
どれも大切なテーマですが、私たちの生活に届くまでには時間がかかります。
しかし、変革の芽は、もっと身近なところにあるのではないでしょうか。
たとえば、行政の仕組みを少しだけ変えること。
身の回りの作業を、少しだけ効率化すること。
あるいは、人の手に頼りきった仕組みを、少しずつ新しい技術に置き換えていくこと。
そんな“小さな変化”の積み重ねが、やがて国全体を変えていく。
私はそう信じています。
象徴としての「掃除」
もしも国の中枢にある施設──官邸や議事堂、各庁舎のどこかで、
静かに動くロボットが、廊下を清めていたとしたら。
その光景は、単なる効率化以上の意味を持つでしょう。
それは、政治が未来に歩み寄ろうとする姿勢の象徴です。
「現場に手を入れる政治」が、いよいよ始まったのだと、国民は感じ取るはずです。
そして、そうした変化は民間にも波及します。
新しい産業が生まれ、研究が進み、技術が磨かれ、教育現場にもその芽が伝わっていく。
すでに学校では、プログラミング教育が義務化されました。
これは、子どもたちが「考える力」を養うためだけでなく、
未来の社会を自ら設計し、動かす人材を育てるためのものです。
国が先に動くことは、その学びの延長線に現実を描く行為です。
あなたの一歩が、教科書の外に広がる“実践の授業”になるのです。
人と技術の共存という挑戦
もちろん、人の仕事が機械に置き換わることへの不安もあるでしょう。
それは真っ当な懸念です。
しかし、変革とは常に痛みを伴うもの。
重要なのは、“急がず、諦めず、着実に”進めることだと思います。
五年でも十年でもかけて、少しずつ形を変えていく。
その過程で、これまでの担い手たちが新しい役割を見つけられるよう、支えの仕組みを作ればいい。
資本主義の国においては、効率を止めることはできません。
けれども、効率の中に人の尊厳を守る方法は、きっとあるはずです。
結語
高市様。
私が願うのは、壮大なビジョンでも急進的な政策でもありません。
ただ、ゲーテの言葉のように、**“まずは家の前を掃除する政治”**を見たいのです。
理想より実践を。
言葉より行動を。
清掃のように地味で、しかし確かな仕事を積み重ねるリーダーシップを。
あなたのその一歩が、
政治のあり方を変え、教育と産業を動かし、
この国に再び「働くことの誇り」を取り戻すきっかけになると信じています。
もし、すでに官邸の廊下でロボット掃除機がギュインギュインと働いていたら──
そのときは、どうかこの手紙の早とちりを笑って許してください（笑）。
敬具。
 |
価格:129577円 |
 |
ゲーテ格言集 （新潮文庫 ケー1-6 新潮文庫） [ ゲーテ ] 価格:649円 |
コメント