井上尚弥か、ボクシングか。──王者統一戦でKOが生まれるという“価値観破壊”について、という話

サラリーマンの独り言

mutoです。

25年12月17日、**堤聖也**が
**ノニト・ドネア**に
2-1のスプリット判定で勝利しました。

試合前の空気は、正直かなり一方的だったと思います。


43歳のドネアはロートル。
全盛期は過ぎた。
堤の敵ではない。

そんな見方が、大勢を占めていました。

ところが結果はスプリット判定。
内容も、どうやら本当に紙一重の勝負だったようです。

試合後の記者会見で映し出された堤の顔は、
「勝った選手の顔」としては、かなり異質でした。

控えめに言ってあの顔だけをみて勝者を当てるのは難しい、そういうレベルでした。

本来のボクシングのタイトルマッチとは、こういう戦いのはずです

ここで一度、立ち止まって考えてみたいのですが。
本来のボクシングのタイトルマッチとは、
実は今回のような試合こそが、正しい姿なのではないでしょうか。

図式的には王者VS挑戦者、ではあるものの

実力が拮抗した者同士が、
12ラウンドをかけて全力でぶつかり合う。


そこにあるのは、明確な上下関係ではありません。

わずかな差。
一瞬の判断。
その日の体調や集中力。

神様が、たまたまどちらに微笑んだか。
それだけで勝敗が決まる。

違う日、違う場所で戦っていれば、
結果は逆だったかもしれない。
そういう紙一重のヒリヒリした戦いだからこそ、
ファンはタイトルマッチに熱狂してきた。

これが、ボクシングという競技が本来持っている世界観です。

そして、その世界観を壊してしまった存在がいる

ところが、その「当たり前」を、
我々はいつの間にか見失ってしまいました。

理由は一つです。
**井上尚弥**がいるからです。

そもそも、タイトルマッチ、王者統一戦でKOが生まれるという事象自体、
本当はほとんど想定されていません。しかも軽量級で。

同じ階級の頂点に立つ者同士。
実力は限りなく拮抗している。
だから判定までもつれるのが自然。

それを、井上尚弥は平然と壊します。

2階級4団体統一。
この時点ですでに現実離れしていますが、
さらにその統一戦をKOで終わらせる

階級を上げても、タイトルマッチで王者をKOでねじ伏せる。

挑戦者をKOでねじ伏せる。

僅差で勝つのではありません。
競り勝つのでもありません。
議論の余地を残さず、終わらせてしまう。

価値観が壊れる、という現象

この異常な強さがもたらしたものは何か。

それは、
ファンの価値観そのものの破壊です。

・タイトルマッチは接戦になるもの
・王者同士なら慎重な展開になる
・KOは簡単には生まれない

こうした、長年ボクシングを見てきた人間ほど共有してきた常識が、
根こそぎ上書きされてしまった。

その結果、我々は無意識のうちに
「井上尚弥基準」で試合を見てしまうようになりました。

今回の堤 vs ドネア戦を見て、
「いや、これが本来のボクシングだよな」
と感じた人も多いはずです。

それは、何も間違っていません。
ただ同時に、
その“正しさ”を再確認させられること自体が異常なのです。

もはや漫画の世界です

ここまで来ると、
強いとか、上手いとか、
そういう言葉では説明しきれません。

漫画です。
完全に。

ドラゴンボールの悟空が強敵を前にして最後に勝ってしまう。
あの世界感。

いや、悟空は一応苦戦します。

服も破れるし、血も流す(笑)

井上尚弥はそれすらない(笑)

だから笑うしかありません。
**モンスター(笑)**と。

ただし、この(笑)は
軽さではなく、畏怖と呆然が入り混じった笑いです。

もはや我々は、この視点でボクシングを見るしかない

ここまで来ると、
我々はもう昔の視点には戻れません。

紙一重の攻防を楽しむ。
判定までもつれる緊張感を味わう。
そうした本来のボクシングの楽しみ方を理解していながらも、
同時に、それだけでは物足りなくなってしまった。

理由は明白です。
井上尚弥を見てしまったから。

王者同士がKOで終わる。
統一戦が一方的に終わる。
それが、何度も繰り返される。

この現実を知ってしまった以上、
我々はもう純粋に「ボクシング」だけを見ることができない。

無意識のうちに、
すべての試合をこう測ってしまう。

これは井上尚弥なのか。
それとも、ボクシングなのか。

どちらが正しい、という話ではありません。
ただ、基準が二つに割れてしまった

そして、その分岐点に立たされていること自体が、
一人のボクサーが競技にもたらした影響の大きさを、
何より雄弁に物語っています。

もはや我々は、
この視点でボクシングを見るしかないのです。

井上尚弥か。ボクシングか。

贅沢な話です。

今日のところは、以上!

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